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世界ぐるり通信

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南極観光の拠点・ウシュアイア −−観光業で発展を続ける世界最南端の都市−−


 2015年11月9日、地球規模の環境変動を調べる目的で、わが国による南極での6年間の観測計画(南極地域観測第9期6か年計画)が文部科学省から発表されました。この計画には深層掘削の拠点となる新基地の設営計画も含まれています。


 南極は、生物、地質、気象、天体などの分野で研究の余地が大いに残された人類最後の未開の地と言えます。また、南極は、1959年の南極条約によって英国、ノルウェー、アルゼンチンなどの国々による領有権の主張が凍結されるとともに、どこの国も領有権を主張していない無主地(所有者が定まっていない土地。 英語・ラテン語で「Terra nullius」)が存在するなど、所有権が原始的な土地が広大に残る唯一の大陸としても興味深いです。


 2001年にNHKが人気番組「プロジェクトX」で、南極地域観測隊による南極観測への挑戦について放送したほか、人類初の南極点到達(アムンゼン1911年)から100年を迎えた2011年には観測隊に同行した樺太犬とのエピソード(いわゆるタロとジロの物語)がTVドラマ化されるなど、わが国での関心も高いと言えます。


        (南極の湖を覆う氷 / 南極に生息するコウテイペンギン (public domain))


 さて、この南極にも、船などを利用して観光旅行に行くことができます。南極への観光旅行は1960年代から始まったとのことですが、世界的に富裕層が増加したことや、ツアーの安全・衛生面の向上、海外旅行の多様化などによって、1990〜2000年頃に急増しました。 環境省や新聞報道によると、1990年代までは年間5,000〜7,000人程度だったところ、現在では20,000人程度の人が南極を観光で訪れるとのことです(観光客の急増が、生態系や研究活動に悪影響を及ぼしているという指摘もあります)。


 南極へ観光旅行に行くには、南米アルゼンチンの「ウシュアイア」という都市から船で渡る方法が最も人気で一般的となっています。ウシュアイアは、アルゼンチンの南端部・フエゴ島に位置する都市で、「世界最南端の都市」としても知られており、南極観光の拠点であるとともに、南部パタゴニア地方の観光地として発展してきました。

 南極ツアーとパタゴニア観光の市場規模の拡大に伴って、ウシュアイアの市域は拡大し、人口は急増し続けてきました。具体的には1970年の人口は約6,000人程度だったところ、1980年には約12,000人、1990年には約30,000人、2000年には約45,000人、2010年には約60,000人、現在は約70,000人へと推移し、過去45年間で10倍以上、約6万人以上の著しい人口増加となっています。


 このウシュアイアを、今から約28年前の1988年3月に訪れましたので当時の様子をご紹介します。


 当時も世界最南端の都市として既に知名度の高い観光地であり、また僻地にあったため物資輸送にコストがかかることから、アルゼンチンの中では物価が高い都市でした。 とは言っても当時のアルゼンチンは全体的に物価が安かったですから、今に比べると全く大したことはありません。 昼食(サンドイッチとコーラ)で10アウストラル=約220円、お店で飲んだコーヒーが5アウストラル=約110円でした(それでもブエノスアイレスの1.3〜1.5倍の物価)。やや贅沢気味の夕食でも70アウストラル=約1,500円との記録が残っています。


 他には、宿泊したHostal Malvinasのツインルーム1泊が当時は218アウストラル=US$36(当時のレートで約4,700円)でしたが、この宿は今も営業しており、ネット予約でUS$125くらいします。 ブエノスアイレスからの航空券(片道)は当時で約US$100でしたが、今はUS$200くらいの金額です。


           (南極観光の拠点・ウシュアイアの街並み (1988年3月撮影))


 さて、ウシュアイアから船で行く南極ツアーはと言うと、当時はUS$2,000〜3,000(12月と1月のみ。11〜14日間)が相場で、当時のレート(US$1=約130円)で計算して26〜39万円くらいということになります。 当時の金銭感覚からしても、「意外と安い!南極、近いやん!」と思ったものです。現在は南極ツアーの相場はUS$4,000〜5,000くらいだそうで、人気の上昇とアルゼンチンの物価上昇に伴ってツアー代金も上がりました。(当時と今を比べた場合、アジアや欧州行きの航空券やツアー代金はあまり値上がっていません。むしろLCCの登場で安くなっている感じすらします。南極ツアーは倍額になってしまいました。)


 ウシュアイアは、観光業に係るインフラも整備が進みました。現在のウシュアイア国際空港は1995年11月に開業し、国際線など路線も増えたようです。1988年当時の空港は小さく、市内への移動交通機関も未整備でした。 タクシーはなく、また空港が市の中心から2kmと近い位置にあったため、30分かけて徒歩による移動が主流となっていました。

 他に、一度廃線になった南フエゴ鉄道が、「世界南端の鉄道」として観光向けに1994年に営業再開されています。フエゴ島国立公園、ホーン岬、ペンギン生息島、氷河など周辺へのツアーも一層充実している様です。


比較項目

1988年

2015年

オスタル(Hostal)

US$36

US$125

航空券(Buenos Aires→Ushuaia)

US$100

US$200

南極ツアー(11〜14日間)

US$2,000〜3,000

US$4,000〜5,000

空港からのアクセス

徒歩(2km)

タクシー(4km)


 ウシュアイアはGoogleのストリートビューで町の様子を見ることができますが、街並み自体は当時とあまり変わっていない気がします。大きく変わったのは市の南西部で、新興住宅地が広い範囲に整備され、市域が大幅に拡大しています。この辺りは当時購入した地図には記載がありません。


 南極という未開の土地に関して観光市場が拡大し、それに伴って拠点となる都市が飛躍的な発展を遂げている点は、仕事柄、興味深いものがあります。今後、どこまで成長を続けるのか、観察していきたいと思います。


 なお、南極は国ではないので、旅行に行くのにビザなどは当然不要ですが、南極環境保護法に基づいて、日本人と日本に在住する外国人の人は環境省への届出または確認申請が必要です。例えばウシュアイアに行って、現地で決めて南極ツアーに申し込む場合にも、日本の環境省に届出が要りますので注意しましょう。(鈴木雅人)


      (ウシュアイアの街並み遠景 −旧空港からの沿道より中心街を臨む− (1988年3月撮影))



 
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