国内不動産鑑定評価・調査
空中権(余剰容積率)の評価
空中権とは、土地の上空の空間を使用する権利または他所の未利用容積率を移転のうえ利用する権利のことです。近年、都心部の土地の高度利用の観点から、空中権(または余剰容積率の利用権)の取引が注目され始めました。
東京駅丸の内側の赤レンガ駅舎は、その復元工事が終わり、2012年10月に全面再開業されました。 東京駅は1914年に開業、戦時中には米軍の空襲によって破壊されたものの戦後に修復され、使用されていましたが、2000年頃に開業時の形態に復元して建て替える案がまとまり、工事が進められていました。
この復元事業において、JRは特例容積率適用区域制度に基づく「空中権の売買」によって工事費約500億円を捻出した様です。
この特例容積率適用区域制度とは、都心部のある一定の区域を定め、その区域内の建築敷地の使用可能容積率の一部を、複数の建築敷地間で移転することができる制度で、制度としては2002年に初めて「大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用区域」が指定されました。 東京駅に係る空中権売買は、この制度を利用したもので、譲渡された空中権は丸の内ビルディング、新丸の内ビルディングや東京ビルディングなどが利用しています。
大阪でも、都心部のビルで長期にわたる空中権の設定契約を締結し、対価の支払いがなされている例があります。 これは一敷地一建築物の共同事業の形態を取り、隣接地へ容積率を移転したものです。
この空中権(余剰容積を利用する権利)は、地役権や区分地上権などの物権を設定するケースと、債権のケースがありますが、容積率を利用できる権利としての経済価値が認識される点は共通していると言えましょう。
財産評価基本通達では、余剰容積率の移転がある場合の宅地の評価として、「設定されている権利の内容、建築物の建築制限の内容等を勘案して評価する」と規定があります。 また、ただし書きとして、設定対価をベースにした算式で求めることも可能としていますが、設定対価やその地価に対する割合は時点の経過によって変動しますので、やはり価格時点における利用可能な容積率が有する効用に着目して評価を行うことが重要でしょう。
すなわち空中権については、地価配分率を活用する方法が説得力のあるものと考えられます。
地価配分率とは、土地の上下空間(階層別)に土地効用(更地価格等)を配分した場合の各階層別の配分比率のことです。
例えば、本来、5階建までの効用が利用可能である中で、空中権設定によって6〜8階の3階層の効用が加えて利用可能となる場合、この3階層分の効用の価値が空中権による効用増すなわち空中権の経済価値であるととらえることができます。以下は空中権価格査定の例です。
この様に案件の内容に注意をしつつ、地価配分率等を活用することで、空中権(余剰容積率の利用権)の経済価値を把握することができます。(2014年5月)