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無形資産・動産評価・研究

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無形資産・動産評価・研究

価値の種類の整理と国際評価基準の改正 −市場価値、公正価値、公正市場価値−


 動産と不動産の評価をあわせて請けた場合、価値の表記が異なるために注釈を付けることがよくあります。つまり不動産評価の場合の求める適正な評価額は、日本の鑑定評価基準では「正常価格」で、国際評価基準(International Valuation Standards、IVS)では「市場価値」となりますが、動産評価の場合には「公正市場価値」が採用されており、異なる名称になりますので、その理由等について注釈を付けます。


 また、国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards、IFRS)では求めるべき資産価値を「公正価値」としています。この様に価値の名称や概念は統一されていません。本稿では、これら求めるべき価値について最新情報に基づいて整理していきます。


国際評価基準IVS


 まず、国際評価基準IVSについて確認しましょう。

 国際評価基準IVSは、非営利の民間団体である国際評価基準審議会(International Valuation Standards Council、IVSC)が公表している不動産を含む資産の評価についての基準であり、現在、国際的な基準として広く世界各国で採用が進んでいるものです。初版は1985年に発行され、改正が重ねられてきました。2017年1月にリリースされた「IVS2017」が最新版になります。


 企業のグローバル化が進み、国際財務報告基準(IFRS)が急速に普及するに伴って、資産評価に関しても国際的な共通ルールが求められるようになってきました。この様な背景から、IVSも2007年頃からIFRSに関する事項を織り込むようになり、2011年版では「財務報告のための評価」として独立した章を設けています。その結果、IVSは世界的に認知度が高まってきており、独自の資産評価基準をもつ国でIVSへのコンバージェンスを実施する例が多く見られます(※1参照)。

 IVSCには2017年1月時点で47カ国・56の評価専門家団体のほか、34の企業、大学、政府機関及びその他の団体が加盟しています。このIVSCへは、日本不動産鑑定士協会連合会は1981年から前身組織へ参加しており、日本公認会計士協会も2016年に加入しています。




「正常価格」と「市場価値」


 まず不動産の評価において求められる価格・価値について見てみましょう。

 日本の不動産鑑定評価基準では、求めるべき価格(価値)として「正常価格」を以下の通り定義しています。また、国際評価基準IVSでは、求めるべき価値として「市場価値(Market Value)」を以下の通り定義しています(なお、IVSでは対象となる資産は不動産に限りません)。


価値の種類

根拠法等・定義

正常価格

<不動産鑑定評価基準(日本国)>
 現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格

市場価値
Market Value

<国際評価基準IVS>
 売買に関し自由意思を有する当事者間で、第三者間の自由かつ公正に行われる資産に関する取引において成立するであろう評価額で、かつ、相当の市場公開期間を経て、各当事者が相応の知識を有し、賢明に、なんら強制なく行動するという条件のもとで成立するであろう評価額(※2参照)


 この両方の比較についてですが、国土交通省土地・水資源局の「不動産鑑定評価基準の国際化に関する検討業務に係る調査報告書」(平成23年3月)において、不動産鑑定評価基準における「正常価格」は、国際評価基準IVSにおける「市場価値」に相当するとされています。



「公正価値」


 国際財務報告基準IFRS第13号では、財務報告を目的とする価値の概念として「公正価値(Fair Value)」を以下の通り定義しています。


価値の種類

根拠法等・定義

公正価値
Fair Value

<国際財務報告基準IFRS第13号>
 測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格(出口価格)


 国際評価基準IVSの2011及び2013年版では、同じ名称の「公正価値(Fair Value)」を「知識を有し自由意思に基づき行動する特定の当事者間で資産や負債が取引されることを前提に見積もられる価格で、各当事者の利益が反映されているものをいう」として定義しています。これは「公正価値は市場価値より広い概念である」、「公正価値を査定するには、市場価値を査定する場合に無視されるような事項(例えば権利の併合によって発生する特別な価値の要素)が考慮される場合がある」などと解説されており、市場価値とは違う独自の定義がなされていました。

 それに加えて、2011及び2013年版ではIVSが定義する「市場価値」は、IFRS における「公正価値」に相当すると記載されていました「The IVSB considers that the definitions of fair value in IFRS are generally consistent with market value.」(※2参照)。


 つまりIVS2013年版までは

 ・IVSの「市場価値」はIVSの「公正価値」とは違うもの

 ・IFRSの「公正価値」はIVSの「市場価値」に相当する

 ・IFRSの「公正価値」はIVSの「公正価値」とは違うもの

 だったということになります。


 ところが、最新のIVS2017年版では、このIVSにより独自に規定された「公正価値(Fair Value)」は「エクイタブル価値(Equitable Value)」と名称変更されました。加えて、IVS2017版では、IVSでは定義していない他の価値(IFRSや米国財務会計など財務報告を目的として定義された価値)として公正価値(Fair Value)を紹介しています。これはIFRSなどにおいて広く使用されている公正価値との混乱を避けるためとのことです(※3参照)。

 また、IVSが定義する「市場価値」は、IFRS における「公正価値」に相当するという文言は削除されました(「公正価値」はIFRS以外でも使われていることやその価値概念を扱う担当部局の解釈が一致しているとは限らない等によるとのことです)。



「公正市場価値」


 動産評価の場合には、求められる価格・価値として「公正市場価値(Fair Market Value)」が採用されています

 動産評価では、米国鑑定士協会ASA(American Society of Appraisers)が最も認知度の高い機関となっています。ASAは本部をワシントンD.C.に置き、1936年に創設された米国でも最も古い資産評価の資格団体の一つで、現在では不動産、動産、事業、知的財産権、美術品等、それぞれの専門分野での評価に関する教育と資格認定の提供を行っています。特に動産、機械・設備、事業評価の分野では世界的に高い信用力を維持しています。

 日本では、一般社団法人日本資産評価士協会JaSIAが、ASAとの業務提携により、ASA認定の資産評価士資格の取得に向けた教育・研修プログラムを提供しています。


 ASAでは、求めるべき価格(価値)として「公正市場価値(Fair Market Value)」を以下の通り定義しています。


価値の種類

根拠法等・定義

公正市場価値
Fair Market Value

<米国鑑定士協会ASA>
 自発的な買い手と自発的な売り手が、いずれも売買を強制されることなく、また双方があらゆる関連事実を十分に知った上で、双方に公正に取引を行う場合に、資産に対し合理的に期待され得る、特定日現在における金銭的に表示された予想額。また、更なる条件により、継続使用・設置・撤去を前提とした公正市場価値に細分化される


 この「公正市場価値」は、米国の税制において主に使用されてきました。国際評価基準IVSにおける「市場価値」と類似する専門用語と言えますが、IVS2017ではIFRSでの「公正価値」と同様に、IVSでは定義していない他の価値(米国の課税やOECDでの国際的な課税を目的として定義された価値)として公正市場価値(Fair Market Value)を紹介しています。



「市場価値」「公正価値」「公正市場価値」・・・どれを採用するか


 以上の通り、価値の種類は、国際評価基準IVSでは「市場価値」(わが国の不動産鑑定評価基準では「正常価格」)、財務報告では「公正価値」、動産や知的財産権の評価では「公正市場価値」が幅広く採用されていることが確認できたと思います。これらは類似した専門用語ですが、完全に一致するものではありません。

 例えば、動産と不動産の両方の評価、財務報告目的の不動産評価など、どの名称を使用すべきかと迷う案件が中にはあります。この様な場合にはどの様に対応すべきでしょうか。


 国際評価基準IVS2017年版では、評価によっては法令、規則、私的な契約、その他の文書により定義された価値の種類を用いることが義務づけられる場合があり、それらに応じて価値の種類を解釈し、適用しなければならないと指摘されています(IVS104)。

 どの種類の価値を選んで評価書を作成するかは、最終的には評価人が責任を負うものと考えられますが、依頼目的や評価条件に応じて適切に判断のうえ、誤解や混乱を避けるために充分な注釈を付けることが有効だと思われます。(2017年12月)


<参考文献>

(※1)「日本の法・会計制度目的に適合した鑑定評価をめざして〜先行する国際的評価基準(IFRSs,IVS等)を参考に〜」(社)大阪府不動産鑑定士協会・調査研究委員会編著・発行、2013年3月

(※2)「IFRSsの公正価値評価に対応した最新国際評価基準」公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会・国際委員会編著、(株)住宅新報社発行、2012年7月

(※3)「国際評価基準(2017年全面改正)−IFRSに対応した資産評価の国際的なスタンダード−」公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会・日本公認会計士協会編著、(株)住宅新報社発行、2017年12月





 
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