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国内不動産鑑定評価・調査

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国内不動産鑑定評価・調査

インスペクション(建物調査)の現状・後編 −住宅性能評価と長期優良住宅−


 前回では、中古戸建住宅など建物評価の精緻化のニーズ拡大に伴い、インスペクション等による住宅の状態把握の重要性が高まっている点をうけて、平成25年6月に発表された既存住宅インスペクション・ガイドラインについて取り上げました。今回は、住宅の品質確保の促進等に関する法律による評価方法基準、長期優良住宅の普及の促進に関する法律による長期優良住宅の認定基準などについて見ていきます。


住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)


 品確法は、平成12年4月に施行された法律で、住宅の性能に関する表示基準、住宅に係る紛争の処理体制、瑕疵担保責任等について定めたものです。


 この法律では、構造耐力、省エネルギー性、遮音性等の住宅の性能に関し表示すべき事項とその表示の方法の基準である「日本住宅性能表示基準」、並びに日本住宅性能表示基準に従って表示すべき住宅の性能に関する評価の方法の基準である「評価方法基準」が規定されています。

 評価方法基準に従って住宅を評価することが「住宅性能評価」であり、国土交通大臣の登録を受けた者(登録住宅性能評価機関)が住宅性能評価を行い、住宅性能評価書を交付することとなっています。


 日本住宅性能表示基準では、住宅性能として耐震等級、耐風等級、基礎の構造方法・形式等、感知警報装置設置等級、耐火等級、維持管理対策等級、換気対策、室内空気中の化学物質の濃度等、石綿の粉じんの濃度等、高齢者等配慮対策等級などの明示が規定されています。

 また、既存住宅については表示すべき事項として「現況検査により認められる劣化等の状況」も加えてあげられています。これは、部位等・事象別の劣化事象等の有無の判定についての明示とともに、総合判定として「『特定劣化事象等のすべてが認められない』又は『特定劣化事象等のいずれかが認められる』のいずれかを明示する」とされています。更に「特定現況検査により認められる劣化等の状況」として、腐朽等及び蟻害の有無の判定についての明示も求められています。


 この「特定劣化事象」には以下の様な項目が例としてあります。詳細については評価方法基準でご確認下さい。



 これを見ると、前述した既存住宅インスペクション・ガイドラインにおける「劣化事象」と品確法の総合判定で対象となる「特定劣化事象」を比較すると、基礎の幅0.5mm以上のひび割れ、深さ20mm以上の欠損(コンクリート材)や、柱、壁、床の6/1,000以上の傾斜、シーリング材の破断など、共通した項目も見られます。


 また、品確法では住宅に係る紛争の処理体制等についても規定されていますが、第74条にて、国土交通大臣は住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準を定めることができる旨が規定されています。

 この住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準は、平成12年建設省告示第1653号によって具体的に内容が規定されています。この基準の例が以下の通りです。物理的欠陥の状態を示す「不具合事象」と「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性」の関係が示されています。



 これを見ると、基礎や壁、柱などで幅0.5mm以上のひび割れや、壁、床などでの6/1,000以上の勾配の傾斜といった不具合事象で、構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が「高い」とされています。前述した既存住宅インスペクションでの劣化事象や品確法の評価方法基準・特定劣化事象と共通した事象の内容も多く、相互に各基準を比較して理解することは検査対象の建物が有する機能の程度や劣化状況等を把握するうえで役立つものと思われます。


長期優良住宅の普及の促進に関する法律


 この法律は、平成21年6月に施行されたもので、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅である「長期優良住宅」について、その建築及び維持保全に関する計画を認定する制度等を規定したものです。


 この法律の第2条、施行規則、並びに長期使用構造等とするための措置及び維持保全の方法の基準(平成21国土交通省告示第209号)によって、長期優良住宅の認定基準が定められています。

 所管行政庁が長期優良住宅建築等計画の認定を行います。すなわち長期優良住宅の認定を得るためには、住宅建築の着工前に建築等計画の認定申請をし、認定を受けた後に着工することになります。


 長期優良住宅の認定基準は、劣化対策、耐震性、維持管理・更新の容易性、省エネルギー性、住戸面積などの性能項目別で規定されています。劣化対策では数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること、耐震性では極めて稀に発生する地震に対して継続利用のための改修の容易化を図るため損傷のレベルの低減を図ること、維持管理・更新の容易性では構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備の維持管理を容易に行うために必要な措置が講じられていること、等を満たすための基準が示されてあります。

 具体的には、例えば劣化対策としては、前記の評価方法基準の劣化対策等級3の基準に適合するとともに、木造であれば「区分された床下空間ごとに点検口を設けること」、「区分された小屋裏空間ごとに点検口を設けること」、「床下空間の有効高さを330mm以上とすること」等の基準を満たす必要があります。


その他


 建物の状況調査内容が記されたものとして、エンジニアリング・レポート(ER)が鑑定評価において活用されています。これは公益社団法人ロングライフビル推進協会(BELCA)による「不動産投資・取引におけるエンジニアリング・レポート作成に係るガイドライン」に基づいて作成されており、劣化状況や構造的欠陥に対する修繕更新費も記載されるものですが、投資用不動産は商業ビルが多く、投資用の共同住宅は対象となりますが戸建住宅は対象になりにくく、作成され難いものと考えられます。

 また、建物現況検査や劣化事象の基準と類似するものとして、「被災度判定」があります。これは一般財団法人日本建築防災協会による「被災度区分判定基準」(被災の程度を軽微、小破、中破、大破などと区分する)がありますが、災害復旧が目的であり、本稿、前稿で取り上げたインスペクション等とは主旨が異なってきます。



 以上、前稿と本稿で3つの法律、指針等について見てきました。各基準等においては劣化事象、不具合事象に関して共通した項目も多く、相互比較や参照することで住宅の構造的な減価要因や性能に関する増価要因がより把握しやすくなるものと思われます。

 また、前稿で取り上げた「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」では、建物評価の精緻化のためには基礎・躯体については性能に応じて20〜25年より長い耐用年数の設定を許容する旨が記されていますが、より具体的には、2.建物評価の改善のあり方の(4)基礎・躯体の評価にて以下の様な記述がなされています。今後の建物評価において、本稿で取り上げた各基準等を活用する例として参考となります。(2017年5月)


劣化対策の程度が異なる住宅の類型ごとに、一般的に基礎・躯体が住宅全体を支え安全性等を確保するという機能を維持すると考えられる期間を基礎・躯体の耐用年数として設定し、経年による減価のモデルを置くことが考えられる。

※具体的には、住宅に係る既往の制度を参考に、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅性能表示制度(新築住宅)の日本住宅性能表示基準に定められた劣化対策等級(構造躯体等)につき、同等級2に相当する措置を講じた住宅で50〜60年程度、同等級3に相当する措置を講じた住宅で75〜90年程度、「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づく長期優良住宅の認定を受けた住宅で100年程度の耐用年数を想定




 
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