国内不動産鑑定評価・調査
インスペクション(建物調査)の現状・前編 −既存住宅現況検査−
近年、国土交通省は中古住宅の流通の促進に向け、各政策を講じつつあります。平成28年3月には、今後10年の住宅政策の指針として新たな「住生活基本計画(全国計画)」が閣議決定され、マンションの建て替え、空き家の利活用促進、既存住宅の流通促進等の方針が示されました。
これらの社会的な背景から、不動産鑑定評価についても、中古戸建住宅など建物評価の精緻化が求められています。平成26年5月1日の不動産鑑定評価基準の改正(同年11月1日に施行)でも、「建物」「建物及びその敷地」に関する価格形成要因について改正されました。
また、平成26年3月には「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」がまとめられ、発表されました。本指針では、建物評価の改善のあり方として、原価法について、人が居住するという住宅本来の機能に着目した価値(使用価値)を評価の対象とし、個別の住宅の状態に応じて使用価値を把握し減価修正を行うことが基本的な方向として示されています。
より具体的には、この原価法に関して以下の項目等が評価の改善の考え方として示されています。
・住宅を基礎・躯体と内外装・設備に分類し、各部位ごとにその減価を把握した上で住宅全体の価値を導き出すことが合理的である ・劣化の進行状態に応じて築年数によらない評価上の経過年数を設定することが考えられる(一定の期間経過後に劣化が進行していないと確認された場合には、その状態に鑑みて、実際の築年数を短縮した年数を評価上の経過年数と設定して評価を行うこと等) ・基礎・躯体については、性能に応じて20〜25年より長い耐用年数を設定し、例えば長期優良住宅であれば100年超の耐用年数とすることを許容する ・基礎・躯体部分の機能が維持されている限り、リフォームを行った場合は住宅の価値が回復・向上するととらえて評価に反映する |
そのため、鑑定評価においてはインスペクション等による個別の住宅の状態の把握の重要性が示されています。そこで本稿と次稿では、建物の状況を調査するインスペクション等の内容について整理し、理解を深めていきたいと思います。
既存住宅インスペクション・ガイドライン
既存住宅インスペクション・ガイドラインは、中古住宅・リフォームトータルプラン(平成24年3月)に基づいて、消費者が中古住宅の取引時点の物件の状態・品質を把握できるようにすることを目的とし、第三者が客観的に住宅の検査・調査を行うインスペクションに関して、検査・調査の項目・方法やサービス提供に際しての留意事項等をとりまとめた指針であり、国土交通省によって平成25年6月に発表されました。
本ガイドラインで規定されるインスペクション「既存住宅現況検査」は戸建住宅、共同住宅等の住宅が対象で、検査方法は、目視、計測を中心とした非破壊による検査を基本としています(目視を中心としつつ、一般的に普及している計測機器を使用した計測や触診・打診等による確認、作動確認等の非破壊による検査を実施します)。検査結果は、「検査結果報告書」にて報告されます。
現況検査は、住宅の構造安全性や日常生活上の支障があると考えられる劣化事象等の有無を把握しようとするものであり、附随したサービスを除けば、(1)瑕疵の有無の判定(瑕疵がないことを保証すること)、(2)耐震性や省エネ性等の住宅が保有する性能の程度の判定、(3)建築基準関係法令等への適合性の判定、(4)設計図書との照合、については含むことを要しないこととしています。
検査項目は以下の例(戸建住宅の場合)の通りで、対象部位ごとの「劣化事象」等の有無の確認が基本になっています。
本ガイドライン発表時点では、検査人について国家資格はありません。ガイドラインでは住宅の建築や劣化・不具合等に関する知識、検査の実施方法や判定に関する知識と経験が求められるとして、住宅の建築に関する一定の資格(建築士、建築施工管理技士等)を有していることや実務経験を有していることは必要な能力を有しているかどうかの一つの目安になると考えられるとしています。
既存の民間資格としてはNPO法人日本ホームインスペクターズ協会が認定する公認ホームインスペクター(住宅診断士)や、一般社団法人住宅管理・ストック推進協会が認定するホームインスペクター等があります。
なお、後述する通り、平成29年2月に「既存住宅状況調査技術者講習制度」が創設され、平成30年4月施行予定の改正宅建業法における建物状況調査に対応する予定となっており、徐々に検査人の資格が高度化していくものと予想されます。
<「現況検査」から「状況調査」へ移行>
宅地建物取引業法の改正案(平成30年4月1日施行予定)が、平成28年2月に国土交通省から発表されましたが、改正案では建物状況調査(インスペクション)を実施する者のあっせんに関する事項を記載した書面を依頼者へ交付することや、買主等に対して建物状況調査の結果の概要を重要事項として説明すること等の規定が加えられる予定になっています。
上述した「住生活基本計画(全国計画)」では建物のインスペクションにおける人材育成等による検査の質の確保・向上等を進めることとされていますが、これをうけて平成29年2月に「既存住宅状況調査技術者講習制度」が創設されました。これは一定の要件を満たす既存住宅の調査に関する講習を国土交通大臣が登録し、講習実施機関が講習を実施する制度です。改正宅建業法における建物状況調査に対応するもので、新たな国家資格の一種であると認識されます。
この様に、既存住宅インスペクション・ガイドラインでは、インスペクションは「既存住宅現況検査」として記載されていますが、宅地建物取引業法改正等に伴って、今後は「既存住宅状況調査」へと移行していくものと予想されます。
次回は、住宅の品質確保の促進等に関する法律による評価方法基準、長期優良住宅の普及の促進に関する法律による長期優良住宅の認定基準などについて見ていきます。(2017年5月)