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世界ぐるり通信

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消えゆく海外のラジオ放送局1 −−インターネットの普及により相次ぐ放送終了−−


 インターネットの普及によって、現在では海外の情報を容易に入手することが可能になりました。各国の政府や大使館は独自のホームページを開設しており、我々はそれを閲覧することでその国から発信される政治、経済、文化などの情報を把握できます。また、民間企業や店舗も独自のホームページを持っていることから、例えば遠く離れたグリーンランドやアルゼンチンにあるスーパーマーケットの今日のチラシを見て、特売品を確認することさえできます。便利な時代になりました。


 インターネットがなかった時代には、海外の情報は図書館でその国に関する本、新聞や雑誌などを探して調べることが一般的でした。但し、総じてどの内容も数ヶ月から数年遅れの情報で古いものでした。

 1990年代までは、最も即時性の高い情報が得られる情報源はラジオだったと思います。ラジオ周波数帯のうち、短波(3,000〜30,000kHz)が遠距離まで到達することから国際放送に適しており、遠い国からの短波放送を受信することでその国のリアルタイムの情報を入手できました。


(右:ハワイ・KWHR-Hawaii局の受信確認証(QSL))


 例えば、ラヂオプレス通信社(現在は一般財団法人、以前は外務省ラヂオ室)は海外の短波を含む放送を受信し、情報収集する組織でしたが、短波放送から北朝鮮の金日成最高指導者の死去情報をいち早く入手して日本国内の各メディアに情報提供したことは有名な話です。


 また、海外スポーツもわずかな例外を除けば日本国内では数日から数ヶ月遅れで結果のみ新聞や専門雑誌で知ることができる程度でしたが、当時のサッカーファンは、唯一短波放送でヨーロッパや南米のサッカー中継を聞くことができましたし、五輪や各種世界選手権の開催時には開催国のラジオ放送で日本では聞けないマイナー競技の中継などを聞くことも可能でした。また、バチカン放送はローマ法王の演説(肉声)を放送することで有名でした。


 この様に、インターネットがなかった時代には、短波ラジオ放送は他では得られない貴重な情報を得ることができる媒体であったと言えます。


(左:ハンガリー・Radio Budapestの受信確認証(QSL))


 現在、インターネットの発達、普及に伴って、短波によるラジオ放送が激減しています。聴取者の減少と高い維持費が主な理由です。短波放送はノイズや他局の混信で鮮明には聞きにくいという欠点がある一方で、インターネットはその様な心配がない上に画像や動画も配信でき、伝えられる情報量も大きな差があると言えます。

 また、短波局は送信機やアンテナの維持にお金がかかり、特に新しく送信機を調達するには相当なコストを要します。国際放送の新送信機に膨大な予算をつける国はもう殆どなく、各国で放送終了や閉局が続いています。各国の国内向け短波放送も、送信機が老朽化していますが新調する予算がなく、現在使っている送信機が故障した時点で放送終了という局も多いようです。


 例をあげると、1970年代のBCLブームの際に最も人気が高かったラジオオーストラリア(Radio Australia)は2017年1月31日をもって短波放送を終了しました。スイスのSwiss Radio Internationalは2004年、過去に日本語放送も行っていたイタリアのRAIは2007年、ラジオ・プラハ(Radio Prague)は2011年に短波放送を終了しています。冷戦時代にモスクワ放送として世界最大規模の放送を行っていたロシアの声放送(Voice of Russia、現在はRadio Sputnik)も2014年以降は短波送信が止まっているようです。


 短波放送だけでなく、AM放送(中波、300〜3000kHz)からFM放送やインターネット放送へと移行する例も欧州やブラジルなど世界的に見られます。また、ノルウェーはAMのみならずFM放送すらも廃止してデジタル放送化に踏み切ったと報道されています。


 一方で、ラジオ放送は災害時の情報伝達メディアとして重視されており、わが国でも阪神大震災以降にその有効性が再認識されました。そのため、完全になくなることはないとは思いますが、ラジオ放送の閉局・縮小の傾向は今後も続くものと思われます。(鈴木雅人・2018年4月)


(Radio Australia、Radio RSAの受信確認証(QSL))



 
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